来て、徳川家には縁故の深い尾州藩の人たちですらそれを考えるような時になって来ている。
「まあ、あなたはまだ起きてるんですか。」
 お民が夜中に目をさまして、夫のそばで寝返りを打つころになっても、まだ彼は寝床の上にすわっていた――枕《まくら》もとに置いてある行燈《あんどん》が店座敷の壁に投げかけて見せる暗い影法師と二人ぎりで。


 八月にはいって、馬籠峠の上へは強い雨が来た。六日から降り出した雨は夜中から雷雨に変わり、強い風も来て、荒れ模様は二日も続いた。さて、二日目の夜の五つ時ごろからは雨はさらに強く降りつづき、次第に風の方向も変わって来たところ、思いのほかな辰巳《たつみ》の大風となって、一晩じゅう吹きやまなかった。ようやく三日目の夜明けがた、およそ六つ半時ごろになって風雨共に穏やかになったころは、半蔵もお民も天井板の崩《くず》れ落ちた店座敷のなかにいた。本陣の表通りから下方《したかた》裏通りまでの高塀《たかべい》はことごとく破損した。
「まあ。」
 あっけに取られたお民の声だ。
 とりあえず半蔵は身軽な軽袗《かるさん》をはいて家の外へ見回りに出た。自分方では仮葺《かりぶ》きの屋根瓦
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