よると、将軍親征の計画は幕府の大失敗であるらしい。こんな無理な軍役を起こし、戦意のない将卒を遠地に送り、莫大《ばくだい》な軍資を費やして、徳川家の前途はどうなろう。名古屋城のお留守居役で、それを言わないものはない。もはや幕府方もさんざんに見える。一橋慶喜《ひとつばしよしのぶ》は万般後見のことでもあるから、長州征伐のことなぞはことごとく慶喜へ一任して、すみやかに将軍は関東へ引き揚げるがいい、そしてしばらく天下の変動をみるがいい、それには小倉表《こくらおもて》に碇泊《ていはく》する幕府の軍艦をもって江戸へ還御《かんぎょ》のことに決するがいい、当節天下の人心は薄い氷を踏むようなおりからである、もし陸路を還御になってはいかような混乱を促すやも測りがたい。これは主君を思う幕臣らの意向であるばかりでなく、イギリスに対抗して幕府を助けようとするフランス公使ロセスなぞも同じ意味の忠告をしたとやらで、名古屋ではもっぱらその評判が行なわれていたことを父に語り聞かせたのであった。
「して見ると、この戦いはどうなったのかい。」
「それがです。各藩共に、みんな初めから戦う気なぞはなくて出かけて行ったようです。長
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