おまんも、父のそばに戻《もど》って来ている。父は先代の隠居半六が余生を送ったこの同じ部屋にすわって、相手のおまんに肩なぞをもませながら、六十八年の街道生活を思い出しているような人である。
「西の方の様子はどうかね。」とおまんまでが父の背後《うしろ》にいてそれを半蔵にたずねた。
「なんですか、こんな山の中にいたんじゃ、さっぱり本当のことがわかりません。小倉《こくら》方面に戦争のあったことまではよくわかってますがね、あれから以後は確かな聞書《ききがき》も手に入りません。幕府方の勝利は疑いないとか、大勝利は近いうちにあるとか、そんな雲をつかむようなことばかりです。」と半蔵が答える。
「まあ、しかしおれは隠居の身だ。」と吉左衛門は言った。「きょうは佐吉を連れて、墓|掃除《そうじ》に行って来たよ。もう盆も近いからな。」
 吉左衛門とおまんとは、新たに子供を失った半蔵よりもお民の方を案じて、中津川からもらった瓜《うり》も新しい仏のために取って置こうとか、本谷というところへ馬買いに行ったものから土産《みやげ》にと贈られた桃も亡《な》き孫娘(お夏)の霊前に供えようとか、そんな老夫婦らしい心づかいをして
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