、十日は京都を初め列藩に前もって布告した攘夷の期日である。京都の友だちからも書いて来たように、イギリスとの衝突も避けがたいかに見えて来た。
「半蔵さん、村方へはどうしましょう。」
と従兄弟《いとこ》の栄吉が問屋場から半蔵を探《さが》しに来た。
「尾張《おわり》領分の村々からは、人足が二千人も出て、福島詰め野尻《のじり》詰めで殿様を迎えに来ると言いますから、継立《つぎた》てにはそう困りますまいが。」とまた栄吉が言い添える。
「まあ、村じゅう総がかりでやるんだね。」と半蔵は答えた。
「御通行前に、田圃《たんぼ》の仕事を片づけろッて、百姓一同に言い渡しましょうか。」
「そうしてください。」
そこへ清助も来て一緒になった。清助はこの宿場に木曾の大領主を迎える日取りを数えて見て、
「十三日と言えば、もうあと六日しかありませんぞ。」
村では、飼蚕《かいこ》の取り込みの中で菖蒲《しょうぶ》の節句を迎え、一年に一度の粽《ちまき》なぞを祝ったばかりのころであった。やがて組頭《くみがしら》庄助《しょうすけ》をはじめ、五人組の重立ったものがそれぞれ手分けをして、来たる十三日のことを触れるために近い谷の
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