けて旧師のうわさが出た。
 旅籠屋に帰ってから、半蔵らは珍客を取り囲《ま》いて一緒にその日の夕方を送った。正香というものが一枚加わると、三人は膝《ひざ》を乗り出して、あとからあとからといろいろな話を引き出される。あつらえたちょうしが来て、盃《さかずき》のやり取りが始まるころになると、正香がまずあぐらにやった。
「どれ、無礼講とやりますか。そう、そう、あの馬籠の本陣の方で、わたしは一晩土蔵の中に御厄介になった。あの時、青山君が瓢箪《ふくべ》に酒を入れて持って来てくだすった。あんなうまい酒は、あとにも先にもわたしは飲んだことがありませんよ。」
「まあ、そう言わずに、飯田の酒も味わって見てください。」と半蔵が言う。
「暮田さんの前ですが、いったい、今の洋学者は何をしているんでしょう。」と言い出したのは香蔵だ。
「また香蔵さんがきまりを始めた。」と景蔵は笑いながら、「君は出し抜けに何か言い出して、ときどきびっくりさせる人だ。しょッちゅう一つ事を考えてるせいじゃありませんかね。」
「でも、わたしは黒船というものを考えないわけにいきません。」とまた香蔵が言った。
 なんの事はない。この二人《ふたり
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