「何にいたせ、あの同勢が鋭い抜き身の鎗《やり》や抜刀で馬籠の方から押して来ました時は、恐ろしゅうございました。」
 それを儀十郎が言うと、子息は子息で、
「あの藤田小四郎が吾家《うち》へも書いたものを残して行きましたよ。大きな刀をそばに置きましてね、何か書くから、わたしに紙を押えていろと言われた時は、思わずこの手が震えました。」
「勝重、あれを持って来て、浅見さんにも蜂谷《はちや》さんにもお目にかけな。」
 浪士らは行く先に種々《さまざま》な形見を残した。景蔵のところへは特に世話になった礼だと言って、副将田丸稲右衛門が所伝の黒糸縅《くろいとおどし》の甲冑片袖《かっちゅうかたそで》を残した。それは玉子色の羽二重《はぶたえ》に白麻の裏のとった袋に入れて、別に自筆の手厚い感謝状を添えたものである。
「馬籠の御本陣へも何か残して置いて行ったようなお話です。」と儀十郎が言う。
「どうせ、帰れる旅とは思っていないからでしょう。」
 景蔵の答えだ。
 その時、勝重は若々しい目つきをしながら、小四郎の記念というものを奥から取り出して来た。景蔵らの目にはさながら剣を抜いて敵王の衣を刺し貫いたという唐土《
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