突撃に移った。あたりはもう暗い。諏訪方ではすでに浮き腰になるもの、後方の退路を危ぶむものが続出した。その時はまだまだ諏訪勢の陣は堅く、樋橋に踏みとどまって頑強《がんきょう》に抵抗を続けようとする部隊もあったが、崩《くず》れはじめた全軍の足並みをどうすることもできなかった。もはや松本方もさんざんに見えるというふうで、早く退こうとするものが続きに続いた。
とうとう、田沼|玄蕃頭《げんばのかみ》は来なかった。合戦は諏訪松本両勢の敗退となった。にわかの火の手が天の一方に揚がった。諏訪方の放火だ。浪士らの足だまりをなくする意味で、彼らはその手段に出た。樋橋村の民家三軒に火を放って置いて退却し始めた。白昼のように明るく燃え上がる光の中で、諏訪方にはなおも踏みとどまろうとする勇者もあり、ただ一人元の陣地に引き返して来て二発の大砲を放つものさえあった。追撃の小競合《こぜりあ》いはそこにもここにもあった。そのうちに放火もすこし下火になって、二十日の夜の五つ時の空には地上を照らす月代《つきしろ》とてもない。敵と味方の見定めもつかないような深い闇《やみ》が総崩れに崩れて行く諏訪松本両勢を包んでしまった。
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