見ると、旅の枕《まくら》もとに置いてある児童の読本《よみほん》でも読んでくれと言った。幸兵衛も長い滞在に疲れたかして、そのそばに毛深い足を投げ出していた。
ようやく十月の下旬にはいって、三人の庄屋は道中奉行からの呼び出しを受けた。都筑駿河《つづきするが》の役宅には例の徒士目付《かちめつけ》が三人を待ち受けていて、しばらく一室に控えさせた後、訴え所《じょ》の方へ呼び込んだ。
「ただいま駿河守は登城中であるから、自分が代理としてこれを申し渡す。」
この挨拶《あいさつ》が公用人からあって、十一宿総代のものは一通の書付を読み聞かせられた。それには、定助郷《じょうすけごう》嘆願の趣ももっともには聞こえるが、よくよく村方の原簿をお糺《ただ》しの上でないと、容易には仰せ付けがたいとある。元来定助郷は宿駅の常備人馬を補充するために、最寄《もよ》りの村々へ正人馬勤《しょうじんばづと》めを申し付けるの趣意であるから、宿駅への距離の関係をよくよく調査した上でないと、定助郷の意味もないとある。しかし三人の総代からの嘆願も余儀なき事情に聞こえるから、十一宿救助のお手当てとして一宿につき金三百両ずつを下し
前へ
次へ
全434ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング