か、五十六人で三両二分とか、村でも思い思いに納めるようだが、おれたちは七人で、一人が一朱《いっしゅ》ずつと話をまとめましたわい。」
仙十郎は酒をついで回っていたが、ちょうどその百姓の前まで来た。
「よせ。こんな席で上納金の話なんか。伊勢《いせ》の神風の一つでも吹いてごらん、そんな唐人船《とうじんぶね》なぞはどこかへ飛んでしまう。くよくよするな。それよりか、一杯行こう。」
「どうも旦那はえらいことを言わっせる。」と百姓は仙十郎の盃《さかずき》をうけた。
「上の伏見屋の旦那。」と遠くの席から高い声で相槌《あいづち》を打つものもある。「おれもお前さまに賛成だ。徳川さまの御威光で、四艘や五艘ぐらいの唐人船がなんだなし。」
酒が回るにつれて、こんな話は古風な石場搗《いしばづ》きの唄《うた》なぞに変わりかけて行った。この地方のものは、いったいに酒に強い。だれでも飲む。若い者にも飲ませる。おふき婆さんのような年をとった女ですら、なかなか隅《すみ》へは置けないくらいだ。そのうちに仙十郎が半蔵の前へ行ってすわったころは、かなりの上きげんになった。半蔵も方々から来る祝いの盃をことわりかねて、顔を紅《あ
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