はいつのことですか。まあ、王滝川の音をよく聞いて行くんですね。」
半蔵はそばにいる勝重に墨を磨《す》らせた。禰宜から求めらるるままに、自作の歌の一つを短冊に書きつけた。
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梅の花|匂《にお》はざりせば降る雨にぬるる旅路《たびじ》は行きがてましを[#地から6字上げ]半蔵
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そろそろ半蔵には馬籠の家の方のことが気にかかって来た。一月《ひとつき》からして陽気の遅れた王滝とも違い、彼が御嶽の話を持って父吉左衛門をよろこばしうる日は、あの木曾路の西の端はもはや若葉の世界であろうかと思いやった。将軍|上洛《じょうらく》中の京都へと飛び込んで行った友人香蔵からの便《たよ》りは、どんな報告をもたらして、そこに自分を待つだろうかとも思いやった。万事不安のうちに、むなしく春の行くことも惜しまれた。
「そうだ、われわれはどこまでも下から行こう。庄屋には庄屋の道があろう。」
と彼は思い直した。水垢離《みずごり》と、極度の節食と、時には滝にまで打たれに行った山籠《やまごも》りの新しい経験をもって、もう一度彼は馬籠の駅長としての勤めに当たろうとした。
御嶽
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