ん、御嶽だよ。山はまだ雪だね。」
と半蔵は連れの少年に言って見せた。層々相重なる幾つかの三角形から成り立つような山々は、それぞれの角度をもって、剣ヶ峰を絶頂とする一大|巌頭《がんとう》にまで盛り上がっている。隠れたところにあるその孤立。その静寂。人はそこに、常なく定めなき流転《るてん》の力に対抗する偉大な山嶽《さんがく》の相貌《そうぼう》を仰ぎ見ることができる。覚明行者《かくみょうぎょうじゃ》のような早い登山者が自ら骨を埋《うず》めたと言い伝えらるるのもその頂上にある谿谷《けいこく》のほとりだ。
「お師匠さま、早く行きましょう。」
と言い出すのは勝重ばかりでなかった。そう言われる半蔵も、自然のおごそかさに打たれて、長くはそこに立っていられなかった。早く王滝の方へ急ぎたかった。
御嶽山のふもとにあたる傾斜の地勢に倚《よ》り、王滝川に臨み、里宮の神職と行者の宿とを兼ねたような禰宜《ねぎ》の古い家が、この半蔵らを待っていた。川には橋もない。山から伐《き》って来た材木を並べ、筏《いかだ》に組んで、村の人たちや登山者の通行に備えてある。半蔵は三沢《みさわ》というところでその渡しを渡って
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