しても、半蔵にしても、いずれも容易ならぬ時に直面したことを感じた。
 四月のはじめには、とうとう香蔵も景蔵のあとを追って、京都の方へ出かけて行った。三人の友だちの中で、半蔵一人だけが馬籠の本陣に残った。
「どうも心が騒いでしかたがない。」
 半蔵はひとり言って見た。
 その時になると、彼は中津川の問屋の仕事を家のものに任せて置いて京都の方へ出かけて行くことのできる香蔵の境涯《きょうがい》をうらやましく思った。友だちが京都を見うるの日は、師と頼む平田|鉄胤《かねたね》と行動を共にしうる日であろうかと思いやった。あの師の企図し、また企図しつつあるものこそ、まことの古代への復帰であろうと思いやった。おそらく国学者としての師は先師平田篤胤の遺志をついで、紛々としたほまれそしりのためにも惑わされず、諸藩の利害のためにも左右されず、よく大局を見て進まれるであろうとも思いやった。
 父吉左衛門は、と見ると、病後の身をいたわりながら裏二階の梯子段《はしごだん》を昇《のぼ》ったり降りたりする姿が半蔵の目に映る。馬籠の本陣庄屋問屋の三役を半蔵に譲ってからは、全く街道のことに口を出さないというのも、その人ら
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