なにしろ、伊那の方はさかんですね。先生のお話じゃ、毎年門人がふえるというじゃありませんか。」
「ある村なぞは、全村平田の信奉者だと言ってもいいくらいでしょう。そのくせ、松沢義章《まつざわよしあき》という人が行商して歩いて、小間物《こまもの》類をあきないながら道を伝えた時分には、まだあの谷には古学というものはなかったそうですが。」
「機運やむべからずさ。本居《もとおり》、平田の学説というものは、それを正しいとするか、あるいは排斥するか、すくなくも今の時代に生きるもので無関心ではいられないものですからねえ。」
 あわただしい中にも、送られる正香と、送る半蔵との間には、こんな話が尽きなかった。
 半蔵は峠の上まで客と一緒に歩いた。別れぎわに、
「暮田さんは、宮川寛斎という医者を御存じでしょうか。」
「美濃《みの》の国学者でしょう。名前はよく聞いていますが、ついあったことはありません。」
「中津川の景蔵さん、香蔵さん、それにわたしなぞは、三人とも旧《ふる》い弟子《でし》ですよ。鉄胤先生に紹介してくだすったのも宮川先生です。あの先生も今じゃ伊那の方ですが、どうしておいででしょうか――」
「そう言
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