い草鞋《わらじ》がそろえてあった。
正香は性急な人で、おまんや半蔵の見ている前で無造作に合羽へ手を通した。礼を述べるとすぐ草鞋をはいて、その足で土蔵の前の柿《かき》の木の下を歩き回った。
「暮田さん、わたしもそこまで御一緒にまいります。」
と言って、半蔵は表門から出ずに、裏の木小屋の方へ客を導いた。木戸を押すと、外に本陣の稲荷《いなり》がある。竹藪《たけやぶ》がある。石垣《いしがき》がある。小径《こみち》がある。その小径について街道を横ぎって行った。樋《とい》をつたう水の奔《はし》り流れて来ているところへ出ると、静かな村の裏道がそこに続いている。
その時、正香はホッと息をついた。半蔵や佐吉に送られて歩きながら、
「青山君、篤胤《あつたね》先生の古史伝を伊那の有志が上木《じょうぼく》しているように聞いていますが、君もあれには御関係ですかね。」
「そうですよ。去年の八月に、ようやく第一|帙《ちつ》を出しましたよ。」
「地方の出版としては、あれは大事業ですね。秋田(篤胤の生地)でさえ企てないようなことを伊那の衆が発起してくれたと言って、鉄胤先生なぞもあれには身を入れておいででしたっけ。
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