そこは伊那道にあたり、原|信好《のぶよし》のような同門の先輩が住む家もあったからで。
 半蔵は正香にきいた。
「暮田さんは、木曾路《きそじ》は初めてですか。」
「権兵衛《ごんべえ》街道から伊那へはいったことはありますが、こっち[#「こっち」は底本では「こつち」]の方は初めてです。」
「そんなら、こうなさるといい。これから妻籠《つまご》の方へ向かって行きますと、橋場《はしば》というところがありますよ。あの大橋を渡ると、道が二つに分かれていまして、右が伊那道です。実は母とも相談しまして、橋場まで吾家《うち》の下男に送らせてあげることにしました。」
「そうしていただけば、ありがたい。」
「あれから先はかなり深い山の中ですが、ところどころに村もありますし、馬も通います。中津川から飯田《いいだ》へ行く荷物はあの道を通るんです。蘭川《あららぎがわ》について東南へ東南へと取っておいでなさればいい。」
 おまんは着流しでやって来た客のために、脚絆《きゃはん》などを母屋《もや》の方から用意して来た。粗末ではあるが、と言って合羽《かっぱ》まで持って来て客に勧めた。佐吉も心得ていると見えて、土蔵の前には新し
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