るで子供のようなよろこび方だ。この先輩が瓢箪から出る酒の音を口まねまでしてよろこぶところは、前の晩に拳《こぶし》を握り固め、五本の指を屈《かが》め、後ろから髻《たぶさ》でもつかむようにして、木像の首を引き抜く手まねをして見せながら等持院での現場の話を半蔵に聞かせたその同じ豪傑とも見えなかった。
 そればかりではない。京都|麩屋町《ふやまち》の染め物屋で伊勢久《いせきゅう》と言えば理解のある義気に富んだ商人として中津川や伊那地方の国学者で知らないもののない人の名が、この正香の口から出る。平田門人、三輪田綱一郎《みわたつないちろう》、師岡正胤《もろおかまさたね》なぞのやかましい連中が集まっていたという二条|衣《ころも》の棚《たな》――それから、同門の野代広助《のしろひろすけ》、梅村真一郎、それに正香その人をも従えながら、秋田藩|物頭役《ものがしらやく》として入京していた平田鉄胤が寓居《ぐうきょ》のあるところだという錦小路《にしきこうじ》――それらの町々の名も、この人の口から出る。伊那から出て、公卿《くげ》と志士の間の連絡を取ったり、宮廷に近づいたり、鉄胤門下としてあらゆる方法で国学者の運動
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