を助けている松尾|多勢子《たせこ》のような婦人とも正香は懇意にして、その人が帯の間にはさんでいる短刀、地味な着物に黒繻子《くろじゅす》の帯、長い笄《こうがい》、櫛巻《くしま》きにした髪の姿までを話のなかに彷彿《ほうふつ》させて見せる。日ごろ半蔵が知りたく思っている師鉄胤や同門の人たちの消息ばかりでなく、京都の方の町の空気まで一緒に持って来たようなのも、この正香だ。
「そう言えば、青山君。」と正香は手にした木盃《もくはい》を下に置いて、膝《ひざ》をかき合わせながら言った。「君は和宮《かずのみや》さまの御降嫁あたりからの京都をどう思いますか。薩摩《さつま》が来る、長州が来る、土佐が来る、今度は会津が来る。諸大名が動いたから、機運が動いて来たと思うのは大違いさ。機運が動いたからこそ、薩州公などは鎮撫《ちんぶ》に向かって来たし、長州公はまた長州公で、藩論を一変して乗り込んで来た。そりゃ、君、和宮さまの御降嫁だっても、この機運の動いてることを関東に教えたのさ。ところが関東じゃ目がさめない。勅使|下向《げこう》となって、慶喜公は将軍の後見に、越前《えちぜん》公は政事総裁にと、手を取るように言って教
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