言う人の顔を見ると、おれはふき出したくなる。そういう人は勤王を売る人だよ。ごらんな――ほんとうに勤王に志してるものなら、かるがるしくそんなことの言えるはずもない。」
「わたしはちょっときいて見たんですよ――お母《っか》さんがそんなことを言っていましたからね。」
「だからさ、お前もそんなことを口にするんじゃないよ。」
 お民は周囲を見回した。そこは北向きで、広い床の間から白地に雲形を織り出した高麗縁《こうらいべり》の畳の上まで、茶室のような静かさ厳粛さがある。厚い壁を隔てて、街道の方の騒がしい物音もしない。部屋から見える坪庭には、山一つ隔てた妻籠《つまご》より温暖《あたたか》な冬が来ている。
「そう言えば、これは別の話ですけれど、こないだ兄さん(寿平次)が来た時に、わたしにそう言っていましたよ――平田先生の御門人は、幕府方から目をつけられているようだから、気をおつけッて。」
「へえ、寿平次さんはそんなことを言っていたかい。」
 将軍|上洛《じょうらく》の前触れと共に、京都の方へ先行してその準備をしようとする一橋慶喜《ひとつばしよしのぶ》の通行筋はやはりこの木曾街道で、旧暦十月八日に江戸|
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