門の姿を見ると、いきなり自分の頬《ほお》かぶりしている手ぬぐいを取って、走り寄った。
「大旦那《おおだんな》、どちらへ、半蔵さまも御一緒かなし。お前さまがこんなに村を出歩かせるのも、御病気になってから初めてだらずに。」
「あい。おかげで、日に日にいい方へ向いて来たよ。」
「まあ、おれもどのくらい心配したか知れすかなし。御病気が御病気だから、井戸の水で頭を冷やすぐらいは知れたものだと思って、おれはお前さまのために恵那山《えなさん》までよく雪を取りに行って来たこともある。」
 吉左衛門から見れば、これらの小前のものはみんな自分の子供だった。
 そこまで行くと、上の伏見屋も近い。ちょうど金兵衛は山口村の祭礼狂言を見に二日泊まりで出かけて行って、その日の午後に帰って来たというところだった。
「おゝ、吉左衛門さんか。これはおめずらしい。」
 と言って、金兵衛は後添《のちぞ》いのお玉と共によろこび迎えた。
 金兵衛も吉左衛門と同じように、もはや退役の日の近いことを知っていた。新築した伏見屋は養子伊之助に譲り、火災後ずっと上の伏見屋の方に残っていて、晩年のしたくに余念もない。六十六歳の声を聞いてから
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