正月早々から半蔵は父の名代として福島の役所へ呼ばれ、木曾十一宿にある他の庄屋問屋と同じように金百両の分配を受けて来た。このお下《さ》げ金《きん》は各宿救助の意味のものだ。
ちょうど家では二十日正月《はつかしょうがつ》を兼ねて、暮れに生まれた男の子のために小豆粥《あずきがゆ》なぞを祝っていた。お粂《くめ》、宗太、それから今度生まれた子には正己《まさみ》という名がついて、吉左衛門夫婦ももはや三人の孫のおじいさん、おばあさんである。お民はまだ産後の床についていたが、そこへ半蔵が福島から引き取って来た。和宮様《かずのみやさま》の御通行前に、伊那助郷総代へ約束した手当ての金子《きんす》も、追って尾州藩から下付せらるるはずであることなぞを父に告げた。
「助郷のことは、これからが問題だぞ。今までのような御奉公じゃ百姓が承知しまい。」
と吉左衛門は炬燵《こたつ》の上に手を置きながら、半蔵に言って見せた。
その日半蔵はお下げ金のことで金兵衛の知恵を借りて、御通行の日から残った諸払いをした。やがてそのあと始末もできたころに、人の口から口へと伝わって来る江戸の方のうわさが坂下門の変事を伝えた。
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