から、いずれも新しい木の香のする建物の方に移って来た。馬籠の火災後しばらく落合の家の方に帰っていた半蔵が弟子《でし》の勝重《かつしげ》なぞも、またやって来る。新築の家は、本陣らしい門構えから、部屋《へや》部屋の間取りまで、火災以前の建て方によったもので、会所を家の一部に取り込んだところまで似ている。表庭のすみに焼け残った一株の老松もとうとう枯れてしまったが、その跡に向いて建てられた店座敷が東南の日を受けるところまで似ている。
美濃境にある恵那山《えなさん》を最高の峰として御坂越《みさかごえ》の方に続く幾つかの山嶽《さんがく》は、この新築した家の南側の廊下から望まれる。半蔵が子供の時分から好きなのも、この山々だ。さかんな雪崩《なだれ》の音はその廊下の位置からきかれないまでも、高い山壁から谷まで白く降り埋《うず》める山々の雪を望むことはできる。ある日も、半蔵は恵那山の上の空に、美しい冬の朝の雲を見つけて、夜ごとの没落からまた朝紅の輝きにと変わって行くようなあの太陽に比較すべきものを想像した。ただ御一人の帝、その上を措《お》いて時代を貫く朝日の御勢にたとうべきものは他に見当たらなかった。
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