と始末をするため会所のなかにある宿役人の詰め所にいた。吉左衛門はそこにいる人たちをねぎらうばかりでなく、自分で自分に言うように、
「御苦労、御苦労。」を繰り返した。
 連日の過労に加えて、その日も朝から雨だ。一同は疲れて、一人として行儀よくしているものもない。そこには金兵衛もいて、長い街道の世話を思い出したように、
「吉左衛門さんは御存じだが、わたしたちが覚えてから大きな御通行というものは、この街道に三度ありましたよ。一度は水戸《みと》の姫君さまのお輿入《こしい》れの時。一度は尾州の先の殿様が江戸でお亡《な》くなりになって、その御遺骸《ごいがい》がこの街道を通った時。今一度は例の黒船騒ぎで、交易を許すか許さないかの大評定《だいひょうじょう》で、尾州の殿様(徳川|慶勝《よしかつ》)の御出府の時。あの先の殿様の時は、木曾谷中から寄せた七百三十人の人足でも手が足りなくて、伊那の助郷《すけごう》が千人あまりも出ました。諸方から集めた馬の数が二百二十匹さ。」
「金兵衛さんはなかなか覚えがいい。」と畳の上に頬杖《ほおづえ》つきながら言うものがある。
「まあ、お聞きなさい。今の殿様が江戸へ御出府の時
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