けている。そこに積み重ねた材木がある。ここに木を挽《ひ》く音が聞こえる。寿平次らは本陣の焼け跡まで行って、そこに働いている吉左衛門と半蔵とを見つけた。小屋掛けをした普請場の木の香の中に。
 半蔵は寿平次に伴われて来た妻子をよろこび迎えた。会所の新築ができ上がったことをも寿平次に告げて、本陣の焼け跡の一隅《いちぐう》に、以前と同じ街道に添うた位置に建てられた瓦葺《かわらぶき》の家をさして見せた。会所ととなえる宿役人の詰め所、それに問屋場《といやば》なぞの新しい建物は、何よりもまずこの宿場になくてならないものだった。
 寿平次は半蔵の前に立って、あたりを見回しながら言った。
「よくそれでもこれだけに工事のしたくができたと思う。」
「みんな一生懸命になりましたからね。ここまでこぎつけたのも、そのおかげだと思いますね。」
 吉左衛門はこの二人《ふたり》の話を引き取って、「三年のうちに二度も大火が来てごらん、たいていの村はまいってしまう。まあ、吾家《うち》でも先月の三日に建前《たてまえ》の手斧始《ちょうなはじ》めをしたが、これで石場搗《いしばづ》きのできるのは二百十日あたりになろう。和宮《かずの
前へ 次へ
全473ページ中329ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング