って、右の手に※[#「革+喋のつくり」、第4水準2−92−7]《ゆがけ》の革《かわ》の紐《ひも》を巻きつけた兄をそんなところに見つけるのも、お民としてはめずらしいことだった。
お民は持ち前の快活さで、
「兄さんも、のんきですね。弓なぞを始めたんですか。」
「いくらいそがしいたって、お前、弓ぐらいひかずにいられるかい。」
寿平次は妹の見ている前で、一本の矢を弦《つる》に当てがった。おりから雨があがったあとの日をうけて、八寸ばかりの的《まと》は安土《あづち》の方に白く光って見える。
「半蔵さんも元気かい。」
と妹に話しかけながら、彼は的に向かってねらいを定めた。その時、弦を離れた矢は的をはずれたので、彼はもう一本の方を試みたが、二本とも安土《あづち》の砂の中へ行ってめり込んだ。
この寿平次は安土の方へ一手の矢を抜きに行って、また妹のいるところまで引き返して来る時に言った。
「お民、馬籠のお父《とっ》さん(吉左衛門)や、伏見屋の金兵衛さんの退役願いはどうなったい。」
「あの話は兄さん、おきき届けになりませんよ。」
「ほう。退役きき届けがたしか。いや、そういうこともあろう。」
多事な
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