方を選ぶことになった。東海道筋はすこぶる物騒で、志士浪人が途《みち》に御東下を阻止するというような計画があると伝えられるからで。この際、奉行としては道中宿々と助郷加宿とに厳達し、どんな無理をしても人馬を調達させ、供奉《ぐぶ》の面々が西から続々殺到する日に備えねばならない。徳川政府の威信の実際に試《ため》さるるような日が、とうとうやって来た。
寿平次は妻籠の本陣にいた。彼はその自宅の方で、伊那の助郷六十五か村の意向を探りに行った扇屋得右衛門《おうぎやとくえもん》の帰りを待ち受けていた。ちょうど、半蔵が妻のお民も、半年ぶりで実家のおばあさんを見るために、馬籠から着いた時だ。彼女はたまの里帰りという顔つきで、母屋《もや》の台所口から広い裏庭づたいに兄のいるところへもちょっと挨拶《あいさつ》に来た。
「来たね。」
寿平次の挨拶は簡単だ。
そこは裏山につづいた田舎風《いなかふう》な庭の一隅《いちぐう》だ。寿平次は十間ばかりの矢場をそこに設け、粗末ながらに小屋を造りつけて、多忙な中に閑《ひま》を見つけては弓術に余念もない。庄屋《しょうや》らしい袴《はかま》をつけ、片肌《かたはだ》ぬぎにな
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