街道のことも思い合わされて、寿平次はうなずいた。
「お民、お前も骨休めだ。まあ二、三日、妻籠で寝て行くさ。」
「兄さんの言うこと。」
兄妹《きょうだい》がこんな話をしているところへ、つかつかと庭を回って伊那から帰ったばかりの顔を見せたのは、日ごろ勝手を知った得右衛門である。伊那でも有力な助郷総代を島田村や山村に訪《たず》ねるのに、得右衛門はその適任者であるばかりでなく、妻籠|脇本陣《わきほんじん》の主人として、また、年寄役の一人《ひとり》として、寿平次の父が早く亡《な》くなってからは何かにつけて彼の後見役《こうけんやく》となって来たのもこの得右衛門である。得右衛門の家で造り酒屋をしているのも、馬籠の伏見屋によく似ていた。
寿平次はお民に目くばせして、そこを避けさせ、母屋《もや》の方へ庭を回って行く妹を見送った。小屋の荒い壁には弓をたてかけるところもある。彼は※[#「革+喋のつくり」、第4水準2−92−7]《ゆがけ》の紐《ひも》を解いて、その隠れた静かな場所に気の置けない得右衛門を迎えた。
得右衛門の報告は、寿平次が心配して待っていたとおりだった。伊那助郷が木曾にある下四宿の宿役人
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