方に夜の街道の空をながめた。田の草取りの季節らしい稲妻のひらめきが彼の目に映った。
「半蔵さん、攘夷なんていうことは、君の話によく出る『漢《から》ごころ』ですよ。外国を夷狄《いてき》の国と考えてむやみに排斥するのは、やっぱり唐土《もろこし》から教わったことじゃありませんか。」
「寿平次さんはなかなかえらいことを言う。」
「そりゃ君、今日《こんにち》の外国は昔の夷狄《いてき》の国とは違う。貿易も、交通も、世界の大勢で、やむを得ませんさ。わたしたちはもっとよく考えて、国を開いて行きたい。」
 その時、半蔵はもとの座にかえって、寿平次の前にすわり直した。
「あゝあゝ、変な流行だなあ。」と寿平次は言葉を継いで、やがて笑い出した。「なんぞというと、すぐに攘夷をかつぎ出す。半蔵さん。君のお仲間は今日流行の攘夷をどう思いますかさ。」
「流行なんて、そんな寿平次さんのように軽くは考えませんよ。君だってもこの社会の変動には悩んでいるんでしょう。良い小判はさらって行かれる、物価は高くなる、みんなの生活は苦しくなる――これが開港の結果だとすると、こんな排外熱の起こって来るのは無理もないじゃありませんか。」

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