代表するし、本陣問屋としては諸街道の交通事業に参加すると想《おも》って見たまえ、とさ。しかし、おれも庄屋の子だ。平田先生の門人の一人《ひとり》だ。まあ、おれはおれで、やれるところまでやって見る。」


「半蔵さま、福島からお差紙《さしがみ》(呼び出し状)よなし。ここはどうしても、お前さまに出ていただかんけりゃならん。」
 村方のものがそんなことを言って、半蔵のところへやって来た。
 村民同志の草山の争いだ。いたるところに森林を見る山間の地勢で、草刈る場所も少ない土地を争うところから起こって来る境界のごたごただ。草山口論ということを約《つづ》めて、「山論《さんろん》」という言葉で通って来たほど、これまでとてもその紛擾《ふんじょう》は木曾山に絶えなかった。
 銭相場引き上げ、小判買い、横浜交易なぞの声につれて、一方には財界変動の機会に乗じ全盛を謳《うた》わるる成金もあると同時に、細民の苦しむこともおびただしい。米も高い。両に四斗五升もした。大豆《だいず》一|駄《だ》二両三分、酒一升二百三十二文、豆腐一丁四十二文もした。諸色《しょしき》がこのとおりだ。世間一統動揺して来ている中で、村民の心が
前へ 次へ
全473ページ中292ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング