丁目の間で船員と商人との二人のオランダ人が殺された。それほど横浜の夜は暗い。外国人の入り込む開港場へ海から何か這《は》うようにやって来る闇《やみ》の恐ろしさは、それを経験したものでなければわからない。彼は瑞見のような人をめずらしく案内して、足もとの明るいうちに牡丹屋へ帰って来てよかったと考えた。
「お夕飯のおしたくができましてございます。」
という女中に誘われて、寛斎もその晩は例になく庭に向いた階下の座敷へ降りた。瑞見や十一屋の隠居なぞとそこで一緒になった。
「喜多村先生や宮川先生の前ですが、横浜の遊女屋にはわたしもたまげました。」と言い出すのは十一屋だ。
「すこし繁昌《はんじょう》して来ますと、すぐその土地にできるものは飲食店と遊郭です。」と牡丹屋の亭主も夕飯時の挨拶《あいさつ》に来て、相槌《あいづち》を打つ。
牛鍋《ぎゅうなべ》は庭で煮た。女中が七輪《しちりん》を持ち出して、飛び石の上でそれを煮た。その鍋を座敷へ持ち込むことは、牡丹屋のお婆《ばあ》さんがどうしても承知しなかった。
「臭い、臭い。」
奥の方では大騒ぎする声すら聞こえる。
「ここにも西洋ぎらいがあると見えますね。
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