りゃ無論内地のものには許されない。ただ、宣教師がこっちへ来ている西洋人仲間に布教するのは自由だということになっていましょう。」
「神奈川へはアメリカの医者も一人来ていますよ。」
「ますます世の中は多事だ。」
だれが語るともなく、だれが答えるともなく、こんな話が舟の中で出た。
牡丹屋へ帰り着いてから、しばらく寛斎は独《ひと》り居る休息の時を持った。例の裏二階から表側の廊下へ出ると、神奈川の町の一部が見える。晩年の彼を待ち受けているような信州|伊那《いな》の豊かな谷と、現在の彼の位置との間には、まだよほどの隔たりがある。彼も最後の「隠れ家《が》」にたどり着くには、どんな寂しい路《みち》でも踏まねばならない。それにしても、安政大獄以来の周囲にある空気の重苦しさは寛斎の心を不安にするばかりであった。ますます厳重になって行く町々の取り締まり方と、志士や浪人の気味の悪いこの沈黙とはどうだ。すでに直接行動に訴えたものすらある。前の年の七月の夜には横浜本町で二人《ふたり》のロシヤの海軍士官が殺され、同じ年の十一月の夕には港崎町《こうざきまち》のわきで仏国領事の雇い人が刺され、最近には本町一丁目と五
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