トの帆前船がまだ二艘しかできていません。一艘は函館丸。もう一艘の船の方は亀田丸《かめだまる》。高田屋嘉兵衛《たかだやかへえ》の呼び寄せた人で、豊治《とよじ》という船大工があれを造りましたがね。」
「先生は函館で船の世話までなさるんですか。」
「まあ、そんなものでさ。でも、こんな藪《やぶ》医者にかかっちゃかなわないなんて、函館の方の人は皆そう言っていましょうよ。」
この「藪医者」には、そばに立って聞いている寛斎もうなった。
入港した外国船を迎え顔な西洋人なぞが、いつのまにか寛斎らの周囲に集まって来た。波止場には九年母《くねんぼ》の店をひろげて売っている婆《ばあ》さんがある。そのかたわらに背中の子供をおろして休んでいる女がある。道中差《どうちゅうざし》を一本腰にぶちこんで、草鞋《わらじ》ばきのまま、何か資本《もとで》のかからない商売でも見つけ顔に歩き回っている男もある。おもしろい丸帽をかぶり、辮髪《べんぱつ》をたれ下げ、金入れらしい袋を背負《しょ》いながら、上陸する船客を今か今かと待ち受けているようなシナ人の両替商《りょうがえしょう》もある。
見ると、定紋《じょうもん》のついた船印《
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