岸通りに新しい商館でも建てられるまで神奈川に仮住居《かりずまい》するという貿易商であった。初めて寛斎の目に映るその西洋人は、羅紗《らしゃ》の丸羽織を着、同じ羅紗の股引《ももひき》をはき、羽織の紐《ひも》のかわりに釦《ぼたん》を用いている。手まわりの小道具一切を衣裳《いしょう》のかくしにいれているのも、異国の風俗だ。たとえば手ぬぐいは羽織のかくしに入れ、金入れは股引《ももひき》のかくしに入れ、時計は胴着のかくしに入れて鎖を釦《ぼたん》の穴に掛けるというふうに。履物《はきもの》も変わっている。獣の皮で造った靴《くつ》が日本で言って見るなら雪駄《せった》の代わりだ。
安兵衛らの持って行って見せた生糸の見本は、ひどくケウスキイを驚かした。これほど立派な品ならどれほどでも買おうと言うらしいが、先方の言うことは燕《つばめ》のように早口で、こまかいことまでは通弁にもよくわからない。ケウスキイはまた、安兵衛らの結い立ての髷《まげ》や、すっかり頭を円《まる》めている寛斎の医者らしい風俗をめずらしそうにながめながら、煙草《たばこ》なぞをそこへ取り出して、客にも勧めれば自分でもうまそうに服《の》んで見せた
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