ると、奉行《ぶぎょう》その人ですら下役から監視されることをまぬかれなかった。それを押しひろげたような広大な天地が江戸だ。
半蔵らが予定の日取りもいつのまにか尽きた。いよいよ江戸を去る前の日が来た。半蔵としては、この都会で求めて行きたい書籍の十が一をも手に入れず、思うように同門の人も訪《たず》ねず、賀茂《かも》の大人《うし》が旧居の跡も見ずじまいであっても、ともかくも平田家を訪問して、こころよく入門の許しを得、鉄胤《かねたね》はじめその子息《むすこ》さんの延胤《のぶたね》とも交わりを結ぶ端緒《いとぐち》を得たというだけにも満足して、十一屋の二階でいろいろと荷物を片づけにかかった。
半蔵が部屋《へや》の廊下に出て見たころは夕方に近い。
「半蔵さん、きょうはひとりで町へ買い物に出て、それはよい娘を見て来ましたぜ。」
と言って寿平次は国への江戸土産にするものなぞを手にさげながら帰って来た。
「君にはかなわない。すぐにそういうところへ目がつくんだから。」
半蔵はそれを言いかけて、思わず顔を染めた。二人は宿屋の二階の欄《てすり》に身を倚《よ》せて、目につく風俗なぞを話し合いながら、しばらく
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