燈《あんどん》を引きよせて、そのかげに道中の日記や矢立てを取り出した。藪原《やぶはら》で求めた草鞋《わらじ》が何|文《もん》、峠の茶屋での休みが何文というようなことまで細かくつけていた。
「寿平次さん、君はそれでも感心ですね。」
「どうしてさ。」
「妻籠の方でもわたしは君の机の上に載ってる覚え帳を見て来ました。君にはそういう綿密なところがある。」
どうして半蔵がこんなことを言い出したかというに、本陣庄屋問屋の仕事は将来に彼を待ち受けていたからで。二人《ふたり》は十八歳のころから、すでにその見習いを命ぜられていて、福島の役所への出張といい、諸大名の送り迎えといい、二人が少年時代から受けて来た薫陶はすべてその準備のためでないものはなかった。半蔵がまだ親の名跡《みょうせき》を継がないのに比べると、寿平次の方はすでに青年の庄屋であるの違いだ。
半蔵は嘆息して、
「吾家《うち》の阿爺《おやじ》の心持ちはわたしによくわかる。家を放擲《ほうてき》してまで学問に没頭するようなものよりも、よい本陣の跡継ぎを出したいというのが、あの人の本意なんでさ。阿爺《おやじ》ももう年を取っていますからね。」
「半
前へ
次へ
全473ページ中164ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング