や》のさかりのころで、木曾名物の小鳥でも焼こうと言ってくれるのもそこの主人だ。鳥居峠の鶫《つぐみ》は名高い。鶫ばかりでなく、裏山には駒鳥《こまどり》、山郭公《やまほととぎす》の声がきかれる。仏法僧《ぶっぽうそう》も来て鳴く。ここに住むものは、表の部屋に向こうの鳥の声をきき、裏の部屋にこちらの鳥の声をきく。そうしたことを語り聞かせるのもまたそこの主人だ。
 半蔵らは同じ木曾路でもずっと東寄りの宿場の中に来ていた。鳥居峠一つ越しただけでも、親たちや妻子のいる木曾の西のはずれはにわかに遠くなった。しかしそこはなんとなく気の落ち着く山のすそで、旅の合羽《かっぱ》も脚絆《きゃはん》も脱いで置いて、田舎《いなか》風な風呂《ふろ》に峠道の汗を忘れた時は、いずれも活《い》き返ったような心地《ここち》になった。


「ここの家は庄屋を勤めてるだけなんですね。本陣問屋は別にあるんですね。」
「そうらしい。」
 半蔵と寿平次は一風呂浴びたあとのさっぱりした心地で、奈良井の庄屋の裏座敷に互いの旅の思いを比べ合った。朝晩はめっきり寒く、部屋には炬燵《こたつ》ができているくらいだ。寿平次は下女がさげて来てくれた行
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