《やぶはら》二宿を越したところにある。風は冷たくても、日はかんかん照りつけた。前途の遠さは曲がりくねった坂道に行き悩んだ時よりも、かえってその高い峠の上に御嶽遙拝所《おんたけようはいじょ》なぞを見つけた時にあった。そこは木曾川の上流とも別れて行くところだ。
「寿平次さん、江戸から横須賀《よこすか》まで何里とか言いましたね。」
「十六里さ。わたしは道中記でそれを調べて置いた。」
「江戸までの里数を入れると、九十九里ですか。」
「まあ、ざっと百里というものでしょう。」
 供の佐吉も、この主人らの話を引き取って、
「まだこれから先に木曾二宿もあるら。江戸は遠いなし。」
 こんな言葉をかわしながら、三人とも日暮れ前の途《みち》を急いで、やがてその峠を降りた。


「お泊まりなすっておいでなさい。奈良井《ならい》のお宿《やど》はこちらでございます。浪花講《なにわこう》の御定宿《おじょうやど》はこちらでございます。」
 しきりに客を招く声がする。街道の両側に軒を並べた家々からは、競うようにその招き声が聞こえる。半蔵らが鳥居峠を降りて、そのふもとにある奈良井に着いた時は、他の旅人らも思い思いに旅籠屋
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