衛《じんべえ》代理格の奉行《ぶぎょう》、加番の給人らが四人も調べ所の正面に控えて、そのそばには足軽が二人ずつ詰めていた。西に一人、東に二人の番人がさらにその要害のよい門のそばを堅めていた。半蔵らは門内に敷いてある米石《こめいし》を踏んで行って、先着の旅行者たちが取り調べの済むまで待った。由緒《ゆいしょ》のある婦人の旅かと見えて、門内に駕籠《かご》を停《と》めさせ、乗り物のまま取り調べを受けているのもあった。
 半蔵らはかなりの時を待った。そのうちに、
「髪長《かみなが》、御一人《ごいちにん》。」
 と乗り物のそばで起こる声を聞いた。駕籠で来た婦人はいくらかの袖《そで》の下《した》を番人の妻に握らせて、型のように通行を許されたのだ。半蔵らの順番が来た。調べ所の壁に掛かる突棒《つくぼう》、さす叉《また》なぞのいかめしく目につくところで、階段の下に手をついて、かねて用意して来た手形を役人たちの前にささげるだけで済んだ。
 菖助にも別れを告げて、半蔵がもう一度関所の方を振り返った時は、いかにすべてが形式的であるかをそこに見た。
 鳥居峠《とりいとうげ》はこの関所から宮《みや》の越《こし》、藪原
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