《か》に木瓜《もっこう》がそれである。客は主人を呼びよせて物を尋ねようとする。そこへ寿平次が挨拶に出る。客は定紋の暗合に奇異な思いがすると言って、まだこのほかに替え紋はないかと尋ねる。丸《まる》に三《みっ》つ引《びき》がそれだと答える。客はいよいよ不思議がって、ここの本陣の先祖に相州《そうしゅう》の三浦《みうら》から来たものはないかと尋ねる。答えは、そのとおり。その先祖は青山|監物《けんもつ》とは言わなかったか、とまた客が尋ねる。まさにそのとおり。その時、客は思わず膝《ひざ》を打って、さてさて世には不思議なこともあればあるものだという。そういう自分は相州三浦に住む山上七郎左衛門《やまがみしちろうざえもん》というものである。かねて自分の先祖のうちには、分家して青山監物と名のった人があると聞いている。その人が三浦から分かれて、木曾の方へ移り住んだと聞いている。して見ると、われわれは親類である。その客の言葉は、寿平次にとっても深い驚きであった。とうとう、一夜の旅人と親類の盃《さかずき》までかわして、系図の交換と再会の日とを約束して別れた。この奇遇のもとは、妻籠と馬籠の両青山家に共通な※[#「
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