穴かんむり/果」、第3水準1−89−51]《か》に木瓜《もっこう》と、丸に三つ引《びき》の二つの定紋からであった。それから系図を交換して見ると、二つに割った竹を合わせたようで、妻籠の本陣なぞに伝わらなかった祖先が青山監物以前にまだまだ遠く続いていることがわかったという。
「これにはわたしも驚かされましたねえ。自分らの先祖が相州の三浦から来たことは聞いていましたがね、そんな古い家がまだ立派に続いているとは思いませんでしたねえ。」と寿平次が言い添えて見せた。
「ハーン。」吉左衛門は大きな声を出してうなった。
「寿平次さん、吾家《うち》のこともそのお客に話してくれましたか。」と半蔵が言った。
「話したとも。青山監物に二人の子があって、兄が妻籠の代官をつとめたし、弟は馬籠の代官をつとめたと話して置いたさ。」
何百年と続いて来た青山の家には、もっと遠い先祖があり、もっと古い歴史があった。しかも、それがまだまだ立派に生きていた。おまん、お民、お喜佐、そこに集まっている女たちも皆何がなしに不思議な思いに打たれて、寿平次の顔を見まもっていた。
「その山上さんとやらは、どんな人柄のお客さんでしたかい。
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