い、角十は他の問屋よりも強欲《ごうよく》すぎるわなし。それがそもそも事の起こりですで。」


 半蔵はいろいろにしてこの牛方事件を知ることに努めた。彼が手に入れた「牛方より申し出の個条《かじょう》」は次ぎのようなものであった。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
一、これまで駄賃《だちん》の儀、すべて送り状は包み隠し、控えの付《つけ》にて駄賃等書き込みにして、別に送り状を認《したた》め荷主方へ付送《つけおく》りのこと多く、右にては一同|掛念《けねん》やみ申さず。今後は有体《ありてい》に、実意になし、送り状も御見せ下さるほど万事親切に御取り計らい下さらば、一同安心|致《いた》すべきこと。
一、牛方どものうち、平生《へいぜい》心安き者は荷物もよく、また駄賃等も御贔屓《ごひいき》あり。しかるに向きに合わぬ牛方、並びに丸亀屋《まるがめや》出入りの牛方どもには格別不取り扱いにて、有り合わせし荷物も早速には御渡しなく、願い奉る上ならでは付送《つけおく》り方《かた》に御回し下さらず、これも御出入り牛方同様に不憫《ふびん》を加え、荷物も早速御出し下さるよう御取り計らいありたきこと。(もっとも、
前へ 次へ
全473ページ中126ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング