父《おやじ》に話してやってもいい。」
牛方は杉《すぎ》の根元にあった古い切り株を半蔵に譲り、自分はその辺の樹陰《こかげ》にしゃがんで、路傍《みちばた》の草をむしりむしり語り出した。
「この事件は、お前さま、きのうやきょうに始まったことじゃあらすか。角十のような問屋は断わりたい。もっと他の問屋に頼みたい、そのことはもう四、五年も前から、下海道《しもかいどう》辺の問屋でも今渡《いまど》(水陸荷物の集散地)の問屋仲間でも、荷主まで一緒になって、みんな申し合わせをしたことよなし。ところが今度という今度、角十のやり方がいかにも不実だ、そう言って峠の牛行司が二人《ふたり》とも怒《おこ》ってしまったもんだで、それからこんなことになりましたわい。伏見屋の旦那《だんな》の量見じゃ、『おれが出たら』と思わっせるか知らんが、この事件がお前さま、そうやすやすと片づけられすか。そりゃ峠の牛方仲間は言うまでもないこと、宮《みや》の越《こし》の弥治衛門《やじえもん》に弥吉から、水上村の牛方や、山田村の牛方まで、そのほかアンコ馬まで申し合わせをしたことですで。まあ、見ていさっせれ――牛方もなかなか粘りますぞ。いった
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