に仮小屋を造りつけ、戸板で囲って、たいせつな品だけは母屋《もや》の方から運んで来てある。そこにおまんや、お民なぞが避難していた。
「わたしはお民さんがお気の毒でならない。」と金兵衛は言った。「妻籠《つまご》からお嫁にいらしって、翌年にはこの大地震なんて全くやり切れませんねえ。」
おまんはその話を引き取って、「お宅でも、皆さんお変わりもありませんか。」
「えゝ、まあおかげで。たった一人おもしろい人物がいまして、これだけは無事とは言えないかもしれません。実は吾家《うち》で使ってる源吉のやつですが、この騒ぎの中で時々どこかへいなくなってしまう。あれはすこし足りないんですよ。あれはアメリカという人相ですよ。」
「アメリカという人相はよかった。金兵衛さんの言いそうなことだ。」
と吉左衛門もかたわらにいて笑った。
こんな話をしているところへ、生家《さと》の親たちを見に来る上の伏見屋のお喜佐、半蔵夫婦を見に来る乳母《うば》のおふき婆《ばあ》さん、いずれも立ち退《の》き先からそこへ一緒になった。主従の関係もひどくやかましかった封建時代に、下男や下女までそこへ膝《ひざ》を突き合わせて、目上目下の区
前へ
次へ
全473ページ中114ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング