といくつも年の違わなかったことを覚えているからで。
「叔母《おば》さんですか。ことしで、ちょうどにおなりのはずですよ。」
かつみさんの口から出て来る話は、昔ながらの「叔父《おじ》さん、叔母さん」だ。その時、青山の姪はかつみさんの「ちょうど」を聞きとがめて、
「ちょうどと言いますと――」
「五十ですよ。」
この「五十」が私を驚かした。私は自分の年とったことも忘れて、あの母さんがきょうまでぴんぴんしているとしたら、もうそんな婆《ばあ》さんか、と想《おも》ってみた。
母さんの旧《ふる》い友だちが十七年ぶりで私たちの家へ訪《たず》ねて来たというは、次郎に取っても心の驚きであったらしい。次郎は今さらのように、亡《な》くなった母さんをさがすかの面持《おももち》で、しきりに私たちの話に耳を傾けていた。私が自分の部屋《へや》を片づけ、狭い四畳半のまん中に小さな机を持ち出し、平素めったに取り出したことのないフランスみやげの茶卓掛けなぞをその上にかけ、その水色の織り模様だけでも部屋の内を楽しくして珍客をもてなそうとしたころは、末子も学校のほうから帰って来た。末子は女学生風の校服のまま青山の姪のうしろ
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