母さんのところへよく遊びに来て、長火鉢《ながひばち》のそばで話し込んだものである。この母さんの友だちですら、次郎が今あって見てはわからないくらいになってしまった。

 間もなくかつみさんは青山の姪《めい》と連れだって、私の家へ訪《たず》ねて来た。私がこの旧知の女の客を迎えるのは十七年ぶりにもなる。あまりに久しぶりでの対面で、私はかつみさんの顔を見つめるともなく見つめて、言葉も容易には口に出せなかった。私たちは互いに顔の形からして変わっていた。
 かつみさんも今では土屋でなしに、他の姓を名乗っている人だ。結婚は二度とも不幸に終わって、今は三度目の家庭に落ちついていると聞く人だ。この薄命な、しかしねばり強い人が、どれほどのこの世の辛酸《しんさん》を経たあとで、今の静かな生活にはいったか、私もそうくわしいことを知らない。かつみさんは、私の子供たちを見に来たいと思いながら今までそのおりもなかったこと、ようやく青山の姪《めい》に連れられて来たことなぞを私に話した。
「次郎ちゃんたちのかあさんが今まで達者でいたら、幾つになっていましょう。」
 私がこんなことを言い出したのは、あの母さんとかつみさん
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