背丈《せたけ》の延びた彼女に似合って見えた。
 次郎は私のほうをもながめながら、
「こうして見ると、とうさんの肩の幅はずいぶん広いな。」
「そりゃ、そうさ。」と私は言った。「ここまでしのいで来たのも、この肩だもの。」
「僕らを四人も背負《しょ》って来たか。」
 次郎は笑った。
 間もなく飯のしたくができた。私たちは婆やのつくってくれた簡単な食事についた。
「きょうは下町のほうへ行って洋食でもおごってもらえるのかと思った。」
 そういう次郎はあてがはずれたように、「なあんだ」と、言わないばかりの顔つきであった。
「用達《ようたし》に行くんじゃないか。そんな遊びに行くんじゃあるまいし。まあとうさんについて来てごらんよ。へたな洋食などより、もっといい事があるから。」
 その時になって、私は初めて分配のことを簡単に二人《ふたり》の子供に話したが、次郎も末子も半信半疑の顔つきであった。

 自動車は坂の上に待っていた。私たちは、家の前の石段から坂の下の通りへ出、崖《がけ》のように勾配《こうばい》の急な路《みち》についてその細い坂を上《のぼ》った。砂利《じゃり》が敷いてあってよけいに歩きにくい。私
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