を分けることには、すでに腹をきめていた。ただ太郎と末子との分け方をどうしたものか。娘のほうにはいくらか薄くしても、長男に厚くしたものか。それとも四人の兄妹《きょうだい》に同じように分けてくれたものか。そこまでの腹はまだきまらなかった。
娘のしたくのことを世間普通の親のように考えると、第一に金のかかるのは着物だ。そういうしたくに際限はなかろうが、「娘|一人《ひとり》を結婚させるとなると、どうしても千円の金はかかるよ。」と、かつて旧友の一人が私にその話をして聞かせたこともある。そこに私はおおよその見当をつけて、そんなに余分な金までも娘のために用意する必要はあるまいかと思った。太郎は違う。かずかずの心に懸《かか》ることがあの子にはある。年若い農夫としての太郎は、過ぐる年の秋の最初の経験では一人で十八俵の米を作った。自作農として一軒の農家をささえるには、さらに五六俵ほども多く作らせ、麦をも蒔《ま》かせ、高い米を売って麦をも食うような方針を執らせなければならない。私は太郎の労力を省かせるために、あの子に馬を一匹あてがった。副業としての養蚕も将来にはあの子を待っていた。それにしても太郎はまだ年も
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