に懸つて、一層《ひとしほ》其風采を教育者らしくして見せた。『天長節』の歌が済む、来賓を代表した高柳の挨拶もあつたが、是はまた場慣れて居る丈《だけ》に手に入つたもの。雄弁を喜ぶのは信州人の特色で、斯ういふ一場の挨拶ですらも、人々の心を酔はせたのである。
平和と喜悦《よろこび》とは式場に満ち溢れた。
閉会の後、高等四年の生徒はかはる/″\丑松に取縋《とりすが》つて、種々《いろ/\》物を尋ねるやら、跳《はね》るやら。あるものは手を引いたり、あるものは袖の下を潜り抜けたりして、戯れて、避《よ》けて行かうとする丑松を放すまいとした。仙太と言つて、三年の生徒で、新平民の少年がある。平素《ふだん》から退《の》け者《もの》にされるのは其生徒。けふも寂しさうに壁に倚凭《よりかゝ》つて、皆《みんな》の歓《よろこ》び戯れる光景《ありさま》を眺め乍ら立つて居た。可愛さうに、仙太は斯《こ》の天長節ですらも、他の少年と同じやうには祝ひ得ないのである。丑松は人知れず口唇《くちびる》を噛み〆《しめ》て、『勇気を出せ、懼《おそ》れるな』と励ますやうに言つて遣りたかつた。丁度他の教師が見て居たので、丑松は遁《に》げる
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