国のみかどの誕生の日を祝ふために、男女の生徒は足拍子揃へて、二階の式場へ通ふ階段を上つた。銀之助は高等二年を、文平は高等一年を、丑松は高等四年を、いづれも受持々々の組の生徒を引連れて居た。退職の敬之進は最早《もう》客分ながら、何となく名残が惜まるゝといふ風で、旧《もと》の生徒の後に随《つ》いて同じやうに階段を上るのであつた。
 斯の大祭の歓喜《よろこび》の中にも、丑松の心を驚かして、突然新しい悲痛《かなしみ》を感ぜさせたことがあつた。といふは、猪子蓮太郎の病気が重くなつたと、ある東京の新聞に出て居たからで。尤《もつと》も丑松の目に触れたは、式の始まるといふ前、審《くは》しく読む暇も無かつたから、其儘《そのまゝ》懐中《ふところ》へ押込んで来たのであつた。世には短い月日の間に長い生涯を送つて、あわただしく通り過ぎるやうに生れて来た人がある。恐らく蓮太郎も其一人であらう。新聞には最早《もう》むつかしいやうに書いてあつた。あゝ、先輩の胸中に燃える火は、世を焼くよりも前《さき》に、自分の身体を焚《や》き尽して了《しま》ふのであらう。斯ういふ同情《おもひやり》は一時《いつとき》も丑松の胸を
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