か言はうものなら、私は斯様《こんな》に裸体《はだか》で嫁に来やしなかつたなんて、其を言はれると一言《いちごん》も無い。実際、彼奴《あいつ》が持つて来た衣類《もの》は、皆な我輩が飲んで了つたのだから――はゝゝゝゝ。まあ、君等の目から見たら、さぞ我輩の生涯なぞは馬鹿らしく見えるだらうねえ。』
 述懐は反《かへ》つて敬之進の胸の中を軽くさせた。其晩は割合に早く酔つて、次第に物の言ひ様も煩《くど》く、終《しまひ》には呂律《ろれつ》も廻らないやうに成つて了つたのである。
 軈《やが》て二人は斯《こ》の炉辺《ろばた》を離れた。勘定は丑松が払つた。笹屋を出たのは八時過とも思はれる頃。夜の空気は暗く町々を包んで、往来の人通りもすくない。気が狂《ちが》つて独語《ひとりごと》を言ひ乍ら歩く女、酔つて家《うち》を忘れたやうな男、そんな手合が時々二人に突当つた。敬之進は覚束《おぼつか》ない足許《あしもと》で、やゝともすれば往来の真中へ倒れさうに成る。酔眼|朦朧《もうろう》、星の光すら其瞳には映りさうにも見えなかつた。拠《よんどころ》なく丑松は送り届けることにして、ある時は右の腕で敬之進の身体《からだ》を支へる
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