》といふは、どこから見ても古い粗造な農家風の草屋。もとは城側《しろわき》の広小路といふところに士族屋敷の一つを構へたとか、其はもうずつと旧《ふる》い話で、下高井の方から帰つて来た時に、今のところへ移住《うつりす》んだのである。入口の壁の上に貼付けたものは、克《よ》く北信の地方に見かける御札で、烏の群れて居る光景《さま》を表してある。土壁には大根の乾葉《ひば》、唐辛《たうがらし》なぞを懸け、粗末な葦簾《よしず》の雪がこひもしてあつた。丁度其日は年貢《ねんぐ》を納めると見え、入口の庭に莚《むしろ》を敷きつめ、堆高《うづだか》く盛上げた籾《もみ》は土間一ぱいに成つて居た。丑松は敬之進を助け乍ら、一緒に敷居を跨いで入つた。裏木戸のところに音作、それと見て駈寄つて、いつまでも昔忘れぬ従僕《しもべ》らしい挨拶。
『今日は御年貢《おねんぐ》を納めるやうにツて、奥様《おくさん》も仰《おつしや》りやして――はい、弟の奴も御手伝ひに連れて参じやした。』
 斯ういふ言葉を夢中に聞捨てゝ、敬之進は其処へ倒れて了つた。奥の方では、怒気《いかり》を含んだ細君の声と一緒に、叱られて泣く子供の声も起る。『何したんだ、
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